さて、次作の絵付けは「モーセ」。
「十戒」のチャールトン・へストン。
左手の薬指の描き方が変だ。
ていうか、左手全体が変だ。
手を描くことは、もっとも絵の実力が出るという。
何度直しても巧くいかなくて、ちょっと嫌気がさしている。
でも、人間を描くのは楽しいし、描き甲斐がある。
まったく誤魔化しが効かないからだ。
「このくらいなら、ちょっとぐらい・・・」
そんな自分の弱さに、人体構造はNo!を突きつける。
「そんな向きには曲がらない」
「そんなところに重心は来ない」
「そんなふうに影は落ちない」
─ 当たり前なところばかり突いてくるのが悔しい。そしてその通りなのもこれまた悔しい。
「描くことは自分の良心に向き合うこと」
そう思えて仕方がない。
─ ため息をひとつつくと、また消しゴムをかけ、シャープペンを握り直す。
誠実さを込めて、描き直そう。
・・・でもね、これで終わりじゃないの。
これをガラスに絵付けするのが、また一苦労なんだな。